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CMRRとは?
差動入力アンプは微小な入力信号(差動信号)を増幅しつつ、正負の入力に共通するノイズ(同相信号)を除去することができるので、センサ信号の増幅などで良く使われます。
この同相信号の除去能力をCMRR(Common-Mode Rejection Ratio):同相信号除去比という尺度で表します。
CMRRの定義式は?
同相信号除去比(CMRR)は、同相(両方の入力に対して同電位)のノイズ信号を相殺すると同時に、差動信号(両方の入力間で電位差のある信号)を増幅する特性のことであり、同相ゲインACMに対する差動ゲインADの比で表します。
・差動ゲイン(AD):2つの入力信号の差(V+ーVー)に対する出力電圧のゲイン
・同相ゲイン(ACM):同相入力電圧に対する出力電圧のゲイン
定義式
出典:計装用アンプの設計ガイド
https://www.analog.com/jp/lp/003/inamp-design-guide-vol3/dh-designers-guide-to-instrumentation-amps-dl.html
差動入力のアンプのトポロジー
差動入力のアンプの主要なトロポジーとしてオペアンプを使った差動アンプ、抵抗内蔵したディファレンスアンプ、計装アンプ、完全差動アンプがあります。
それぞれについてのCMRRを考えていきましょう。
オペアンプ(差動アンプ)
ゼロドリフトオペアンプADA4522-2を使った差動アンプのCMRRをLTspiceでシミュレーションしてみましょう。
差動ゲインAd=100の差動アンプで検証してみます。
理想的な抵抗の場合、シミュレーションでCMRRは144dBとなりました。
ADA4522-2のデータシートで145dB(MIN)となっており、データシート通りの優れたCMRRが得られることを確認できました。
先ほどは、外付けの抵抗の比が理想的だとして考えました。
次に回路のゲインを決める抵抗R1~R4が、たとえば薄膜抵抗±0.02%相当の誤差を持つ場合で検討してみます。
高精度な薄膜抵抗を使ったとしても、シミュレーションでのCMRR結果は102dBとなってしまいました。抵抗のマッチングに大きく左右されることが分かりました。
参考文献
https://www.analog.com/jp/resources/analog-dialogue/articles/deeper-look-into-difference-amplifiers.html
ディファレンスアンプ(抵抗内蔵)
高精度でマッチングされた抵抗を内蔵したディファレンスアンプというユニークな製品もあります。
LT1997-3は、内蔵抵抗の優れた整合性により高いCMRRが得られます。データシートでは差動ゲイン=9にて112dBと規定されています。
また、コモンモード入力電圧範囲が広く、電源電圧を超えたコモンモード電圧を入力できるというメリットがあります。
参考文献
LT1997-3 - 電圧範囲の広い利得を選択可能な高精度アンプ
計装アンプ
計装アンプはインスツルメンテーション・アンプとも呼ばれます。ブリッジ回路を用いた圧力センサなど、微小なフローティングの信号を増幅するために設計された製品であり、大きなコモンモード電圧が存在する状態で微小な差動信号を測定できるアンプです。外付け抵抗1本(RG)でゲインを設定でき、外付け抵抗1本(RG)でゲインを設定でき、高いCMRRを得られます。入力インピーダンスが非常に高いので信号源インピーダンスの影響を受けないというメリットもあります。
出典:アナログ・デバイセズ社 記事
計装アンプの効果的な使い方 | Analog Devices
AN-244アプリケーション・ノート
AN-244:IC計装アンプのユーザ・ガイド
AD8422のCMRRをLTspiceでシミュレーションしてみましょう
差動ゲインAd=100の計装アンプで検討してみます。
シミュレーションの結果として、CMRRは140dBとなりました。
ADA8422のデータシートではCMRRが134dB(MIN)となっており、ほぼデータシート通り高いCMRRであることを確認できました。
計装アンプは内部回路の制約でオペアンプよりも入力電圧範囲が狭くなっていますので注意が必要です。
アナログ・デバイセズ社のダイヤモンド・プロットツールが入力電圧範囲の検証に便利なツールです。
先ほどのシミュレーションでは、電源電圧±15Vにてコモンモード入力を16Vpp(±8V)で行いましたが、20Vpp(±10V)とすると警告が出て、設定を変えるよう推奨されます。
出典:アナログ・デバイセズ社 HP 計装アンプ・ダイヤモンドプロットツール
計装アンプダイヤモンド・プロット・ツール | アナログ・デバイセズ
完全差動アンプ
完全差動アンプ(FDA)は、差動入力と差動出力を備えており、A/Dコンバータの前段で使われます。A/Dコンバータに適したレベルに調整できます。
出力コモンモードが直流(DC)入力電圧によって簡単に調整できるデバイスです。
出典
Fully Differential Amplifier Provides High Voltage and Low Noise Signal to Precision Data Acquisition Signal Chain | アナログ・デバイセズ
ADA4945のご紹介
完全差動アンプの例としてADA4945をご紹介いたします。電源電圧は10V(±5V)と広く、レールtoレール出力です。100kHz帯域で1.8nV/√Hzと低ノイズで、-133dBcの低高調波ひずみですので16bit以上の1Msps A/Dコンバータの前段アンプとして最適なアンプです。
CMRRについては、差動ゲイン=1で110dBを得られます。ただし外付け抵抗のマッチングに注意を払う必要があります。
完全差動アンプ設計のお助けツールとして、アナログ・デバイセズ社のHPからDiff-Amp calculatorTMが無償でダウンロードできます。
ノイズや帯域幅、SFDR、ENOBなどの計算値が簡単に確認できる便利なツールです。
まとめ
差動入力のアンプについて様々なトポロジーの製品をご紹介いたしました。
下記に製品例とともにそれぞれのトポロジーのメリットやデメリットをまとめました。
お客様の用途に応じて使い分けをしていただければ幸いです。
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第3回 周波数特性とスルー・レートについて
参考記事
第1回では、オペアンプの仕様についてご紹介していますので是非ご覧ください。
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