
Part1では、電流モード降圧DC/DCコンバータを例に、位相補償設計の基本的な考え方と補償定数の求め方について解説しました。
▶ DC/DCコンバータの位相補償の学び(Part1)はこちら
Part2では、設計した補償回路を基にFRAシミュレーションを実行し、ループ特性の確認と負荷過渡応答のシミュレーションによる動作検証を行います。
10. FRAシミュレーションの実行と確認
ここまではAC解析で見てきましたがスイッチングレギュレータの実際の動作条件である時間解析のFRAシミュレーションを行ってみましょう。
①シミュレーション開始から出力電圧が定常状態に達する時間を知る。
今回の結果では4.2ms位で定常状態に達しているので、数字の切りの良い5msとしてみます。これは、次のFRA設定の1つの “Start Analysis at Time [sec]“ の値になります。
②回路図にFRAコンポーネントを追加して、各種設定を行う。
設定パラメータの決定を支援してくれる Configuration Wizard が使えますので、最初はそれに従えば良いと思います。
③元の.tran の解析タイプを.fra に変更する。
これはConfigure Analysis (A) をクリックして Transient Frequency Response タブを開き、設定し、OKボタンを押す。
④RUN
詳細については、LTspice Help > FAQ > Producing Bode Plots for an SMPS を始めとする各種説明を参照下さい。
Fco = 55.0 kHz
PM = 54.5 degrees
GM = -24 dB @ 300 kHz (1/2Fsw)


下図はADP2384 データシート19ページからの引用したボーデ線図です。


両者の結果は近そうと言えそうです。
11. 負荷過渡応答のシミュレーション確認
負荷電流を過渡的に変化させてみて応答速度やアンダーシュート、オーバーシュート量、リンギングの有無等を確認してみましょう。


リンギングは見られずに収束しているのでシミュレーション結果は良好の様です。
12. まとめ
ADP2384データシート情報を題材にして電流モード降圧コンバータの基本的な周波数補償に付いて計算とシミュレーションを行いながら学びました。今回示した例ではループ補償設計のメインである3つの補償部品 Rc, Cc, Ccpは計算式に値を代入することで求める事が出来ます。これには最初の方で示した小信号等価回路の各部品の数値が分かっている事が前提ではあります。
アプリケーションによっては、意図的により高速または低速な応答を目指す等の目的のモノも各種ありますが、1V近辺の低出力電圧で高速性を求める等以外の多くの一般的な応用には今回の方法は充分実用的で参考になると思われます。 一見複雑に思える位相補償ですが、今回の例では基本方針が理解できると非常にシンプルなものであると言えると思います。
ここまでは基本方針設計ですが、実機での実測や挙動の確認はやはり必要です。理由は今回の検討では主に理想電流源と仮定しているパワーステージ・モジュレータと実際のデバイスとの差、Coutや配線の寄生インダクタンスや基板のスイッチングノイズ影響等が入っていないからです。また量産時の各部品の値のバラツキ、経年変化等も含まれていません。実機においてFRA測定や過渡応答観測を想定使用温度範囲、入力電圧、出力電流範囲において実施し、必要に応じて補償器の最適化を検討されることを推奨いたします。
13. リファレンス
・ADP2384 | datasheet and product info ステップダウンDC-DCレギュレータ、20V、4A、同期型 | Analog Devices
・AN76: OPTI-LOOPアーキテクチャによる出力容量の低減と過渡応答の改善
・AN-149: Modeling and Loop Compensation Design of Switching Mode Power Supplies | Analog Devices
・DC/DCコンバータ用の補償回路、その設計プロセスをステップ・バイ・ステップで学ぶ | アナログ・デバイセズ
14. 補足と付録
①エラーアンプ・トランスコンダクタンスのデータシート上の表記箇所


②電力段のトランスコンダクタンス表記はデータシート17ページ左下に有ります。


③いろいろな補償回路のタイプ


左は誤差アンプが普通のオペアンプタイプで電圧モードの製品に良く使われ、右がトランスコンダクタンス・(電流出力)アンプです。今回の教材はこの右のタイプで一般的に電流モードの製品に広く使われています。電流出力アンプにすることにより並列動作の場合にcomp (Vc, Ith) ピン同士の並列接続がしやすいとか、各種保護回路を並列OR接続しやすい等の理由で使われます。
タイプ1は積分器だけです。DCから低速で良い回路には使われますが、DC/DCコンバータではほとんど使われません。タイプ2はゼロとポールを一組追加したもので、電流モードではほぼこれで良いとされていて最も多く使われています。タイプ3は帰還抵抗部にもう一組のゼロとポールを追加したもので、電圧モードで一般的にはこれを使う必要があります。電流モードでもより高速や位相余裕が必要な場合には使われます。
④ラプラス表記の電源
ADP2384のデータシート17ページに、この電力段のラプラス表記での伝達関数式Gvd(s)を掲載していますのでこれもLTspiceのE電源を使って参考までに再現を試みてみました。結果は次の図です。


当然かもしれませんが、Gps, Rload, Resr, Cout の部品で表現した回路図での結果と一致しております。
⑤Fcoでのパワーステージ・ゲインGfc(V/V) を知る方法・その2
次の式も使えます。これにパラメータ・数値を代入してみましょう。

これは結局は4.で計算した方法と同じで、周波数がFcoより低い場合はポール周波数fp(ps)は電力段の利得を支配し、FcoはエラーアンプのroとCcの並列回路が作るポールよりはるかに高いという一般的な仮定に基づいています。
⑥負荷過渡応答波形から分かる事
過渡応答を与えてその応答波形からおおざっぱな位相余裕の傾向を知る事が出来ます。もしリンギングやオーバー・アンダーシュートが見られればその繰り返し周波数がクロスオーバー周波数です。オーバー・アンダーシュートが見られない場合は、位相余裕は約60度以上あり安定なシステムと考えられますが、アプリケーションによっては遅すぎる危険性があるシステムである場合も有りますので、実機において起動時や出力短絡からの解放後に過度のオーバーシュートが見られないか等の確認が必要かと思われます。


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